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かくれんぼ

旧館にて掲載していた作品です。
リクエストがあったため、再び掲載します。


◎7/3(金) 13:30
智子は小さくながら歓喜を挙げた。
まさかこれほどまで早く皆を見つける事ができるとは考えてもいなかったからだ。
このデパートという密集地帯でのかくれんぼを提案したはいいが、言いだしっぺの法則とでもいうかジャンケンという不平を欠く行為によってめでたく第一回目の鬼にされてしまった。
元来活発に動く事を好まず、押し入れなどに身を潜む事が好きな智子は鬼など絶対やりたくない性分である。
今回のかくれんぼを提案した理由も、全部鬼にならずに乗り切ろうという意気込みがあったからであって、その野望が勝負せずに潰えてしまうなど考えてもいなかった。
おそらくこの考えに至らなかった理由は、まだ智子自身が赤いランドセルを背負って歩く世間一般から見れば程度の低い身分であったからであろう。
鬼になり、全然やる気がないままゲームが始まった。
ところがどっこい。
智子自身は隠れるのが得意なのだ。つまり、よほど馬鹿げた場所でもない限り殆ど皆が隠れる箇所の推測がついてしまう。
これが缶蹴りならば負ける可能性もあったのだが、かくれんぼにおいては特に大きな運動能力を必要としない。女子の智子でも思考に余裕ができる。
仲間5人を、奥が見えないほどのフロアであるにも関わらず僅か5分足らずに見つけてしまった。
明日から智子のあだ名はかくれんぼ王。略してかく王に任命されるかもしれない。
略す訳は知らないが。
「よ~し、次の鬼は…よっちゃんだね!」
リーダー格の少年が、丸刈り鼻垂れ小僧のよっちゃんに鬼を告げる。もちろん、最初に見つかったのはよっちゃんなんで、本人も次は自分が鬼ということは重々承知であった。
やはりよっちゃんも鬼はやりたくなかったのだろうか。少し告げられ少し嫌そうな顔をする。
比べ、智子は終始満面の笑み。
他の女子たちも智子の笑みの理由には気づいており、次は彼女について行こうかなどとも考えているのかもしれない。
「それじゃあ、よ~い…スタート!」
リーダー格の少年がよっちゃんを伏せさせ、皆に号令をかける。
それにより皆一斉に散らばった。

一番先陣を切って走り出したのは智子だった。
さっきの事で調子が良いのか、いつもよりハイペースである。
その後を、他の女子たちが走って付いてくる。彼女の隠れる場所ならそう簡単に見つからない。そう踏んでいるのだろう。
メンズショップを抜け、キッズ衣類売場まで来る。さっきの場所からこの場までけっこうな距離がある。
今日が平日というせいか、人の数は正直少ない。
だが、なぜか智子は普通の大通りを通ろうとせず、わざと狭い道や、途中にある小店の間をくぐって行く。
まるで他の女子たちを振り払おうとしているかのようにも見える。
レディース、キッズが並んだ大きな衣類店。
子供たちも大分息が上がってくる。
「…と、智子どこに隠れる気なんだろう?」
「わかんない…。でもこのままじゃ時間になっちゃうよ」
「よっちゃん足速いからな…もう追いついちゃうかも…」
「どうだね…って、あれ?智子どこ行った!?」
「え?……あれ、ホントだ」
「さっきまでそこに居たよね?」
ほんのちょっと目を離しただけだった。彼女たちの目の前を走っていた智子はいつのまにか消えていた。
辺りには大人たちしかいない。
「どこ行ったんだろ…」
「あ、ヤバいよ!もうすぐ来る!」
「しょうがない!あそこに…」
彼女たちはもう智子を追う事を諦め、さらにその先へ走って行く。
そんな様子を遠く…いや、近くから眺めかすかに微笑む智子。
さて。彼女は一体どこに隠れているのだろうか?
微笑んでいると言う事が分かることから、彼女は外の様子を容易に監視できる場所に隠れていることが推測される。
ここは衣類店。その衣類の乗っている台の下や外の様子が上手くうかがえない試着室の中は除外された。最も試着室は店の奥にあるので、
友人らが一瞬目を離した隙に隠れるのは不可能といえる。
智子には鬼や他の皆がどこに隠れているか容易に観察できる。さらに、店内の大人でさえ気付かないし迷惑もかけない。
もう少し目を凝らしてみよう。
智子が消える前と消えた後で変わった点…。
一か所。注意深く見なければ分らないが、かすかに変わった点がある。
店の入り口となりにある数体のマネキン人形。
まだ衣替えが済んでいないのか、夏の衣装ではない男女の二体のマネキン。おそらく夫婦でもイメージしているのだろうか。
そして…その間に一体のマネキン…。いや、それはマネキンではない。
注意深くみれば分かるが、瞬きをしている。さらに言えば、身体が揺れている。
顔を見てみよう。

智子だった。
出来る限り顔の表情を変えず、じっと動かない。
気を隠すには森の中。人を隠すには人の中…と言いたいところなのだろうが、あいにく今日は人が少ない上に子供は智子らいがいあまりいない。
一発でばれてしまう。
だが、人…までいかなくても人に準ずるものならたくさんある。このフロアは衣類が非常に多いのでその分マネキンも多い。
さりげなくその中に混じって立っていれば分からないだろうと踏んだのである。
智子は心中、我ながらナイスと自賛を繰り返していた。
本当はもっと前にあったキッズのマネキンの中に混ざる予定だったのだが、後ろから友人らが付けてきていることに気づいた。
チラチラ後ろを注視し、一瞬目が逸れた瞬間にとっさにマネキンの中に紛れ込んだ。
もちろんこんな芸当、一人のほうが成功確率が高いに決まってる。
それに智子は、言いたくはないが彼女らは隠れるのが下手だった。せっかく調子の良いのだから邪魔されたくなかったのだ。
このかくれんぼをパーフェクトで乗り切り、早くかく王になりたかったのだ。
友人の気配が消えたので、一息入れる智子。
同じポーズでじっと動かないのは正直キツイ。
だが、さっきので友人は気付かなかった。これはイケると内心智子はウキウキ状態である。
軽く背伸びなんかもしてみる。
客はもともとマネキンなんて特に注視していない訳で、変な子供が一人紛れ込んでいても特に気に留める様子はないようだった。
それは智子にありがたいことである。
背伸び中、ふと辺りを見渡す。
フロアの奥の角から一人の子供が姿を見せる。
丸刈りで鼻からは遠くからでも分かるくらい鼻水が垂れている。
よっちゃんだ。
すぐに智子は分かった。
背伸びを中断し、すぐにポーズを取り始めようとする。
だが、感心の本番になって以外にポーズが定まらない。
(え~と…、マネキンってどんなポーズしてたっけ?…こうかな?)
敬礼しても仕様がない。
だが焦っていた智子はその格好でやりきろうとした時。
(…あれ?)
ホントかどうかは不明だが、智子の腕が勝手に動いたような気がした。敬礼していた腕は頭から離れ、そのままそれっぽい仕様になってくる。
m1.jpg
(…あ!そうだこんなポーズだ。)
我ながらナイスなポーズだと内心ほっとする智子。
準備も完了し、よっちゃんが少しずつ近づいてくる。胸の鼓動が収まらない。
少しずつ…少しずつ…近づいてくるのだが、
(え?もう終わり?)
まったく、いや全然探してないのかと疑うほど、早いスピードでこの場を去る。
智子の演技が素晴らしかったのか、あるいはよっちゃんが間抜けなだけなのか、わからないが智子はいとも簡単に隠れるのに成功することが出来た。
(なんか拍子抜け…)
あまり疲れた感覚がなかったので、もう少し演技続ける智子。だが流石に10分もすれば飽きてくる。
よっちゃんは全然戻ってこない。
この段階ではもうすでに皆見つかり、智子だけが見つからず全員途方にくれているのかもしれない。
そんな自尊も生まれ、そろそろこの場から離れようかと決意したとき。
(……あれ?)
m2.jpg
長く居過ぎたせいか、腕が元に戻らない。いや、動かない。
(おっかしいな…ん?あれ?あれ!?)
腕だけではない。
そういえばさっきから自分は揺れていない。顔の角度もまったく変わっていない。しいていうなら瞬きをしていない。
つまりまったく動いていない事に気づいた。
(え?ええ?な、なんで動けないの!?)
あまりの非現実的出来事に当然パニックになる。智子側から見ると大騒ぎだが、他方から見れば、智子自体まったく動いていない。

彼女はその空気に溶け込んでいるマネキンそのものだった。
智子からでは不明確ではあるが、彼女の肌をよく見て欲しい。
天井の照明が異様に反射している。普通人間の肌はこれほど照明を反射しない。且つ彼女の肌は若干うす汚れた色になっている。
そして、極めつけはこの二点。
首、肩と腕の堺、ふともも辺り、腹に断裂が見える。ヒビという言い方は不適当だろう。ヒビにしては綺麗な線である。つなぎ目と言ったほうが適格だ。
さらに瞳。智子側からはまったく感知できないが、彼女の瞳はない。瞳があった場所は肌と同色の色に染まっていた。
そう、それはどこからどう見てもマネキンにしか見えない。
(い、やだ!誰か!誰か助けて!!)
無我夢中に助けを求める智子。
だが、その声を聞き届く者はいなかった。



◎7/3(金) 22:35
閉店から約30分後。
劇場を除く他店はすべて業務を終了し、そのまま終わり或いは明日の週末のための準備に勤しんでいた。
あるフロアの一角。メンズ、レディース、キッズ共に取りそろえた某大型衣類店。
その大きな店舗をわずか数名の男女が、せっせと早く帰るため残業に明け暮れていた。
若さ、容貌からしておそらく高校か大学のバイト生だろう。ダルそうに一点一点最終確認をしていく。
「お~い!明日から表を水着コーナーにするからマネキンの水着着替えさせろって」
「はぁ?今から」
「今から」
もっとはやく言ってくれなどの異論が彼の頭を徘徊するが、いくら騒いでも仕方ないので水着を受取り、二人でマネキンの展示してある所まで歩く。
「えっと、…この子供の方でいいのか?」
そこには3体のマネキン。大人の男女とその間に立つ少女のマネキン。心なしか、真ん中の少女のマネキンが少し他とは違う雰囲気があるようにも感じられる。
「ああ…って、あれ?ここにこんなマネキンなかったぞ?」
「そうか?昨日はあったけど。…まあこれでいいさ。さっさと着けて帰ろうぜ」
その小さなマネキンを半ば強引に引き寄せ、着ていたワンピースを乱暴に脱がす。
m3.jpg
「あれ?…なあ、マネキンって下着もつけるんだっけ?」
「どうして?」
「これパンツ着てるよ」
「誰か間違って着せたんじゃねーの?」
どうでもよいことかもしれないが何となく気になる彼。
別に独りでに着たとかだったら、色々アレだがそんなものを信じるほど彼も子供ではない。
相方にマネキンの頭を持ってもらい、下着を脱がす。
そしてその全裸になったマネキンに不器用に水着を着せていく。なかなか通らず肘でマネキンを叩きながら角度を調節する。
m5.jpg
「…ふぅ。やっと完成」
水着を着せ終え、そのマネキンを元の場所に安置する。
作業を終え、従業員らはさっさと別の仕事へ移る。
やがて、店内の照明は落ちた。



◎7/4 2:04
デパート内の劇場で、最後の映画も終わり警備員以外はすべて帰宅した。
(…うぅ、ひっく…)

智子が動けなくなってから十数時間。彼女は終始ずっと泣いていた。
最初こそその動かぬ口で必死に助けを求めていたが、さきほど。その店の従業員によってまるで着せ替え人形のように服を脱がせれ、
裸を見られ、さらに他人に水着を着せられるという行為によって、彼女は羞恥心で崩れてしまった。
だが、どんなに泣いても叫んでも不思議と疲れないしお腹も減らなかった。
しかしそんなの関係ない。
そして極めつけはこれ。さっき、最後の従業員が店内から去ってしまったため、照明が完全に落とされた。
数分で目が慣れてきたが、正直怖くてどうしようもない。
智子はその真闇の中、必死にその恐怖と闘い続けた。


◎7/5(日) 11:05
もう3日立ったまま。
夜などは精神崩壊でどうにかなりそうでもあった。
(ひっく、ひっく……あっ)
「…やっとプールに行けるのか~。今年は遅めだね」
「しかたないじゃない。梅雨だったし」
見なれた二人が自分の方へ近づいて来る事がわかる。クラスメイトの女子とその母親。
席がとなりなのでよく覚えている。
(お、お願い!気づいて!!)
必死に嘆願する智子。そして、クラスメイトの子が智子を見て、足を止める。
「これって…」
(ゆみちゃん!)

「ちょー可愛くない!?この水着!!」
母親を置いてクラスメイトのゆみは、さっそうと智子の元へ近寄る。だが、智子本体には目もくれず。
「ねーママ!この水着がいい!!」
はしゃぐゆみ。
そこへ店員が、駆けより。
「どうかなさいました?」
店員は、ゆみと少し話すと彼女の母親の元へ寄る。そして、よく聞き取れないが、おそらくその水着のPRを行っているのだろう。
智子の心情は……言うまでもないだろう。
やがて、店員と母親は話を止める。店員の表情からして売れたのだろう。微笑みが感じられる。
「申し訳ありませんが、本品は人気のため在庫がこのマネキンの試着しているものしかないのですがよろしいでしょうか?」
「ええ。構いません」
店員は一礼すると、智子の着ているマネキンを客の前のせいか、丁寧に脱がす。
(や、やだ!やめてよ!これ脱いだら、私はだかに…)
m4.jpg
「お待たせしました。すぐに包装致します。」
智子の身につけている衣類をすべて剥ぎ取られ再び全裸になった彼女。
もちろん店員はマネキン扱いの智子より、客のほうが大事なわけで裸の智子には目もくれずさっそうとゆみらを連れてレジへ向かう。
(…えっく、ひっく…も、もうやだよぉ…)
大泣きしているはずなのに、表情はまったくの笑顔。遠くから見てもそれは微笑んでいるようにしか見えない。



もう何をしても仕方がない。
智子は、この2日間で自暴自棄になっていた。
もう助からない可能性もある。助かったらラッキーだ。
でも死にたくない。
ならどうする?
でもどうしようもない。
声が出ないのだ。
ならいくら喚いた所で無駄な喪失感と絶望を味わうだけである。
他の手を考えよう。
「おーい!こっち、こっち!!」
ふと、視線を間近に戻す。
そこに二人の子供。智子より歳は若干低め。
「へ~ん!つかまえてみよろっ!」
見ての通りやんちゃの子供たちの他愛もない追いかけっこ。
だが、次の瞬間、
「や~い、こっち、こっ…あっ」
(へ?)
前をしっかり見ていなかったその子供は、智子の体に勢いよくぶつかる。
m6.jpg

そしてそのまま、智子らは床に叩きつけられた。
何かがバラバラになる音が響く。
「痛たたた…。あっ、ヤベ!」
子供たち目の前には、バラバラになったマネキン人形。
それを見るや、子供らは自分の失敗に気づき追いかけっこ以上に走って逃げてしまう。
やがて、そこに店員がやってくる。
「あっ!…またあのガキどもだな…」
バラバラになったマネキンをもう一度組立ようとする。
「げっ、芯が折れてるじゃねーか…」
マネキンの裂け目を繋ぐ芯。先ほど倒れたショックで曲がっており、つなぐのは困難な状態であった。
「…仕方無い。おい!斎藤」
「はい」
「これもう使えないからゴミ袋に入れて裏の処理場まで持って行け!」
「あ、はい。…でもこれ相当新品じゃないですか?」
「ガキ用だし、いいだろ。よし、持ってけ!」
バラバラのマネキン人形が、ごみ袋へ詰められていく。
特に他と変わらないマネキン人形。

(…ああ。せっかく子供が出来たと思ったのに)
(まぁいいさ。また別の子を貰えば。…ほら、あの子なんていいんじゃないか?)

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