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ライバルとチョコ

過去作の再掲載です。
チョコ化です。

「ねえ、斎藤君」
「ん、何?」
「斎藤君ってさ、今付き合ってる人いるの?」
「え?…アハハ、いるように見える?」
「え~見えない!絶対居そうなのに」
と言いつつも内心ガッツポーズ。
当然だ。私以外の女と斎藤君が付き合うなんてある訳がない。
居たとしたらきっとそいつは宇宙人か科学者に人工的に作られた人間に違いない。
創造物以外で私よりも可愛いなんてある訳ないし。
…ま、仮にそんな創造物がいたとしても負ける気はしないけどね。
「そう言われると嬉しいよ。…あ、そろそろ部活の時間だ。じゃ!」
そう言いながら彼、斎藤君は去り方さえカッコよく、走っていった。
……はあ、なんて良いオトコなんだろ。
マジで惚れ惚れする。
今日は2月の13日。時刻は夕方。
明日は、そう。
年に一度の大イベント日。

『バレンタインデー』

私こと“長谷部 春香”はある特別な力を持つ女子高生。
特別な力を持つのは主人公にとって当たり前の事。だからこの物語の主人公である私が特殊能力を持つのだって当たり前。
だが私はそんじょそこらの特殊能力者とは訳が違う。
私が持つもの。
それは、『美貌』!
いつも思う。鏡を見るたびに私は何て可愛く美しいんだろうって。
こんな可愛い人間が一般的な人間である訳がない。
つまりわたしは特殊なのだ。
そんな特殊な私だからこそ、斎藤君というそれ相当の人としか釣り合わない。
だから、斎藤君の婿になるのは私以外ハッキリいって考えられない。
明日は聖なる日。
この私と斎藤君が結ばれるきっかけになる絶好の日といえよう。
その日のために最高級のチョコレートも用意した。あとは今日家でそれを使ってチョコケーキを調理すればOK
もう完璧としか言えない。
「つよし~?」
私が思いにすがってる中、後方の方から醜い女の声が聞こえてくる。振り向いて見てみるとそこには見るからに醜悪な面をした女がいた。
「あ、長谷部さん。ごめんけど、つよ…斎藤君見なかった?」
なんだ?
このクソアマは、自分が斎藤君と下の名で呼べるほどの中だと自負でもしたいのだろうか?
怒りを通り越して哀れにさえ思えてくる。
「さあ…見ませんでしたけど」
もちろん本当の事を教えてやろうなどとは微塵も思わない。
目の前のこのブサイクな女は、“春日 千尋”という。名字の通りカス同然の女と言えよう。
何せこいつはこんなブサイクな面をしているのに関わらず、あろうことか我が愛しの斎藤君の所属しているテニス部のマネージャーなるものをやっている。
そして斎藤君のケアと称して常に彼の周りに纏わりついている害虫なのだ。
「あれ?おっかしいな…。こっちに来たと思ったんだけど…」
「もしかしたら、教室にいるんじゃないですか?」
「いやーそれはないよ。アイツ、ホームルーム終わったらすぐに飛び出してたらしいもん」
貴様にアイツ呼ばわりされる斎藤君が可哀そうでならない。
「もう部活行ったのかな…。とりあえず行ってみよう。じゃあね長谷部さん」
「ええ」
去っていく春日を表面だけの笑顔で見送る。
ったく、あのブス死んでくれないかな。
ま、斎藤君があのような輩に心を奪われるなんて万に一つもないんだけどさ。
あの女が去ったのを見届けて一呼吸おく。
今日は、迎えの車が来るまで少し時間がある。
どうやって時間をつぶそうか…。
「…ん?」
そう思った矢先、地面に置かれた小さな本に目が行く。
この位置は…さっきまで、あのクソ女がいた場所だから…アイツの忘れものかな?
拾って触ってみる。質感からしてとても新品とは思えないな。
文庫本のようだ。えらく古い。
タイトルは読めなさそうだ。イニシャルがDということしか分からない。
どうせ届ける気にもなれないし、時間つぶしのために読んでやるか。読み終わったらゴミ箱にでも捨ててやろう。
適当にめくって見る。…なんだこれ、日本語じゃないじゃん。
あの頭の悪そうな女にしては珍しい。全部外国語だ。しかも英語じゃない。
何の本なんだ?
しばらくページをめくってみると、しおりの挟まったページが見つかる。
大体半分くらいだから…あの女、ここまで読めたのか?
…そうか分かった!
これはきっと頭の悪い人間、またはブサイクな女にしか読めない言語なんだ。
そう考えれば納得がいく。
…ん?マーカー?
ふと見ると、栞の挟んであるページのある一節に赤いマーカーで線が引いてあった。
「えっとなになに……akouimdae,smaanse?」
適当な発音で言ってみる。
あの女が引いたものなのだろうか?
やはり馬鹿の考えることは分からん。
こんな本に目を通すだけ無駄だな。さっさと捨てて迎えの車を待とう。
そう思って本を閉じた。
が、その瞬間。
…あれ?
突如目の前に広がる闇。おかしいな…今はまだ日はあるはずだが?
さっきまでの見慣れた廊下とは打って変わった光景。一面に広がる闇。
自身の姿さえ確認できない。
「…え?ちょ、ちょっと!?」
数秒たって事態の深刻さに気付いた。
…ここ、どこ?
空間移動?そんな漫画じゃあるまいし。
……あ、分かった!!
そうかそういうことか。
これは神様がついに私の美貌をねたんで連れ去ってしまったんだ。そうだ、そうに違いない。
くそっ、なんて卑劣な!
だけど安心してね、斎藤君。
こんな理不尽な出来事、2人の愛で打ち砕いてあげるから!
「…何を馬鹿げた事を言っておるのじゃ」
「え?」
「まったく、まさかこんな短期間で再び召喚されることになるとは思わなんだか…」
真っ暗な空間に聞こえ渡るジジイ言葉。
声のした方向に目をやると、今まで真っ暗で見えなかったその場からかすかに閃光が見える事に気がつく。
しばらくすると、目の前にまるで悪魔と言う言葉が似合いそうな貧相な怪物が姿を現した。
だが、悪魔みたいと言っても漫画なんかで出てくるような巨大で恐ろしい物ではなく、赤ん坊くらいの大きさをしている。しかし断言してもいい。この身なりに姿。これは悪魔だ。
「なんですって、神様ではなくて悪魔まで私の美貌を妬んでたというの!?」
「お前は一体何の話をしとるんだ?」
こいつ、しらばっくれるつもりか。
「…ま、ワシも次の仕事間近なもんでな。はやく要件を言ってくれんか?」
「え?要件?」
「…もしかして、何も知らないのか?」
「知ってるに決まってるじゃない。アンタが私の美貌を妬んで天からやってきたんでしょ!?」
「よし、とりあえず座れ。ゆっくり事情を説明してやるから」


「…以上じゃが、何か質問はあるかの?」
何ということだ。
あの女、こんなオカルト的手段を用いようとしていたなんて…。
やはりブサイクな女の考えは分からん。
ちなみに私の思った通り、コイツはどうやら悪魔らしい。
こんな非現実的な身なりで人間ですなんて言われた方が信じがたいが。
ただし、天からやってきたとか言うわけではなくて、さっき私が読んだ本によって召喚されたという事だ。
…つまり、簡単にいうとマーカーの引いた文字は悪魔を召喚する呪文のようなもの。
それを偶然読んでしまい、このチビ悪魔がやってきたという訳だ。
本の表紙のDはdevilのDだったのかもしれないな。
「えっと、質問なんですけど悪魔がやってくるとどうなるんですか?」
「そんなの決まっておろうが。…願いを叶えに来たんじゃ」
大抵太古からのお決まりで悪魔の場合、願いの代償は図りしれないものが多い。
願いをかなえる代償に命を吸い取られたり、…はっ!私の場合、お約束としてブサイクにされる可能性が…!?
「あ、そうそう。安心せい。…ワシは悪魔界でも生粋の親切男として名が通っておる。これが、どういう意味か分かるか?」
「自惚れ」
「よし、まずは貴様を猫に変えてやる」
そう言って、変な呪文を唱え始める悪魔。
「じょ、冗談ですって!アハハ…」
さすがにヤバそうだったので、とりあえず誤っておく。
人間だからこそ引き立つこの私の美貌が、猫になどなってしまえば宝の持ち腐れも良い所だ。
「ま、つまりワシは他の悪魔と違って代償を必要しないという事じゃ」
偉そうにそう言う悪魔。
本当だろうか?
悪魔と言えばウソツキがお約束。
ちゃっかり代償があったという展開だけは勘弁願いたい。
「その証拠にさっきの契約者には無償で願いを叶えてやったぞ。…そう、確かさっきまでお主と一緒に話していた女子生徒じゃ」
「…一緒にって…まさかあのブサイク女!?」
「ブサイクって…。ワシから見れば先ほどの女は十分美人の部類に入る女性だと思うがの…」
それは価値観の違いだろう。きっとこの悪魔は豚とかに一目惚れをするに違いない。
でも、たしかにあの女が落とした本にはこの悪魔を呼び出す一節が書いてあった。しかも栞付きだし考えてみれば当然の事かもしれない。
でもあの女が悪魔を召喚って。
スポーティな見た目とは裏腹なことをやっているものだと思う。
「あの女の願いを叶えたの?」
「ああ、一応聞いておいたが…」
「もしかして…斎藤君の心を惑わすようなことを…」
自然と手に力が入ってくる。
殺れる。今の私ならぜったい殺れる!
「…ま、まあ落ち着け。そのような事は願っておらぬ」
「だよねー。あのブスにそんな度胸さえある訳ないか」
身の程を弁えてたということだろう。
「最高級のチョコレートを用意してほしいという物じゃった」
あの女ブチ殺す。
明日があの日なのだから、チョコレートの用途は一つしかない。
今までの素振りからしてアイツが斎藤君にチョコを渡すのは目に見えている。
なんてことだ、アイツは自分に自信がないからといって食べ物で斎藤君を釣ろうとしているのだ。
しかもそのために悪魔と契約なんて…。
「そ、そのチョコレートってゴ○ィバとかのよりも美味しいの!?」
「まあ…地球上の食物では比較できんくらいの上質な材料を使っておるからの。まず勝負にならんじゃろ」
「そ、そんなに圧倒的?」
「うむ」
な、なんという事だ。
あの斎藤君が物につられるという事は考えられないが、プレゼントでブスに負けてしまったという汚名をこれから一生背負っていかねばならない事になる。
いくら私が才色兼備な完璧人間だったとしても、そんなくだらない事で奴にひけをとってしまう…。
それは断じて許せない!
「…ねえ悪魔さん。私の願いも叶えてくれるの?」
「ああ、もちろんだとも」
少し不気味な笑い方をした後、悪魔はそう言う。
「よしっ。願いは決まった!私に、あのブサイクが求めた以上の上質のチョコはちょうだい!」
「それは構わんが…、あの女性が求めたもの以上の物が手に入るかどうかはお前さん次第じゃぞ?」
「ん、どういうこと?」
「お前さんが、あの女性が見つけ出した物以上の材料を見つけられるかどうかじゃ」
「え?材料って探しせばあるものなの?」
「ああ。いいか材料はな――――――

―――人間の女じゃ」


「これを見て見るがいい」
悪魔がそう言って一つの箱を差し出す。
小さな棺桶のような箱で、スライド式の入口を開く。
「これが完成品じゃ」
中に入っていたのは小さなチョコレート。大きさは人形くらいで、現に形は人の形をしている。
人の形をしていると言ったが、形程度ではすまないかもしれない。
ハッキリ言って人間をそのまま縮めて、さらにそれをチョコで固めてしまったかのような出来栄え。
そのチョコは女性を象っており、両手を奇麗に添え直立姿勢を保っている。
自らの体を隠さず、裸状態のチョコの表情は少し恍惚そうな表情を浮かべている。
「…どうじゃ、うまそうじゃろ?」
そのチョコを眺める私の横で、ほくそ笑みながらそう尋ねる悪魔。
匂い、そして色。
確かに食欲をそそると言われればそう答える。だが、
「これって、元は人間なんですよね?」
どう見てもちょっとリアルなチョコレート。だが、この悪魔曰くそれは元々私たちと同じ人間だったそうだ。
まあこんなリアルなチョコそうそうあるわけない。つーかテレビ含めて初めて見た。
「そうだ。どうじゃ?食ってみらんか?」
いくら私でもそこまで真相を言われてはいそうですかと、猟奇的にはなれない。
当たり前だ。
このチョコが生きていれば私は殺人をしてしまうことになる。
しかも人食だ。どっかの映画じゃあるまいし。
…本当にこれが元人かも疑わしいが、こんな身なりをした悪魔だ。本当にそうだったとしても何ら不自然なことはないだろう。
「なぁ~に安心せい。もうこの女は人間ではなくただのチョコレートじゃよ」
「…で、でも」
「食べ物にとっての一番の幸福は何じゃ?食べられることじゃろ?」
「…う、う~ん…」
「このチョコになった女だって、きっと誰かに食べられる事をきっと望んでおるはずじゃ」
「…ぅぅ」
「いいか。この女はもう人間には戻れない。せっかくじゃしお主が食べてあげなされ」
「……」
「お主は、最高級のチョコレートを作りたいんじゃろ?」
「……」
「なら、そのための下準備じゃよ。どの程度の物が出来上がるのか」
「……」
「さあ、愛する彼のために…」
「……はい」
そうだ。
なんか頭がボーッとするけどその通りだよ。
愛する斎藤君のために最高級のチョコレートをあげなきゃ!

パキッ

私はそう思いながらチョコ人形の腕を折る。
そしてそれを口へ放り込む。
「…なにこれ?」
こんなもの初めて食べた。
ハッキリ言って生まれてこの間、食べてきたどんなお菓子…いや、どんな食べ物よりも美味しい。
「うまいじゃろ?」
口の中で溶けゆく甘みを堪能する。
これは…想像以上だ。
「お主が指定した女1名をそのようなチョコに変えてやる」
悪魔はそう言って微笑みながら、ひたすらチョコを食べ続ける私を見ていた。


「チョコの味は、年齢、容姿に比例して変化する。若ければ若い程甘みは強い。大体上質に仕上がるのはお主ぐらいの年齢じゃろうな。…加えて一番肝心なのが容姿じゃ。単純に美しければ美しい女性ほど美味しいチョコレートに仕上がる」
校内に残る女性を見渡しながら歩く私の隣で悪魔はそう呟く。
だが、ハッキリ言って美しい女といってもこの学校では私くらいなもんだ。
さすがに私自身を差し出す訳にもいかないし、それなりの女を探すしかないのだろうか。
それに考えたらさっき悪魔が差し出した女だってブサイクだった訳だしな。
「…さっきのチョコの女は、一応元グラビアアイドルなのじゃぞ。容姿だって最高級」
なにやら凄いカミングアウトを聞いた気がする。
「ところで、あの女…春日も私と同じ願いをしたんですよね?」
「ん、そうじゃが」
「ってことは…あの女もどこかの女をチョコにしたってこと?」
「…さあ、それはどうじゃろうなぁ…」
何やら不気味に笑う悪魔。…なんか少し怖い。
「ま、まあしかし、誰もこれもブサイクばっかだな~。こうなりゃブサイクの中で特にマシな奴にするしかないかなぁ~」
ブサイクの中でマシ…か。
そう考えた瞬間、ある一人の人物が私の脳中に浮かぶ。
アイツか…確かに、ブサイクの中では考えてみれば上の部類に入るのかもしれない。
それに制裁にもなる。
「…春日千尋」
そう悪魔に告げる。
標的は愛しの斎藤君を誑かしたあのブサイク女だ。
あまりこういう事言うと擁護的に思われるかもしれないが、あの女は学内の他のブサイク女(といっても私以外の女子)の中では多分一番マシなのではないかと思う。
さっきのグラビアアイドルチョコにもひけをとらないと思うし、最上級のチョコが出来上がると思う。
…あのブサイクが斎藤君と一つになるというのは少し癪に障るが。
「春日千尋に決める」
「ほお、そう来たか…。ま、予想はしておったがな」
などと、軽々しく言う悪魔。
「じゃ、早いとこチョコにしてきて私にちょうだい」
急いで家に帰って、チョコレートケーキに加工しなければならない。もともとそのつもりだったし。
「まあ、慌てるな。チョコが出来上がるのには少し時間もかかる。そうだな…今夜の9時ぐらいに家に届けよう」
9時か…ギリギリだがこの際妥協しよう。
「わかった。じゃあ9時ね」
「はいよ」
悪魔はそう言って霧のように消え去った。
去る手前、不気味に笑っていた表情が少し気になったが。


「おっそいな…」
ヘラをゆっくりかき混ぜながら私はそう呟く。
もう9時半だ。
こっから先の作業はチョコを使った作業になる。はやく来てくれないと色々とマズイ。
まさか…今までのが全部夢だったなんてことはないよな?
だとすると私はなんて痛い女なんだろう。
ブサイク女に気づかずに抵抗心でも燃やしていたという事なのだろうか?
それは非常に恥ずかしいどころか、この頭をかち割ってでも記憶を消し去りたい。
もしかしてこれも神が私に与えた嫉妬だというのか。やはり神は私の美貌を妬んで、このような私を辱める行為をさせようとでも…。
「すっかり遅くなってしまったな。お待たせ」
目の前に夕刻に見た悪魔が姿を現す。
手には棺桶が1つ。あのチョコが入っているのだろう。
「ほれ、例の品」
悪魔はそう言って、棺桶を開き中に入っていた物を私に手渡す。
ある意味見慣れた顔に姿。
春日千尋――の姿をした小さなチョコレート。
茶色一色なので、詳しくは分からないがパジャマの上からエプロンを着たままの格好をしている。
表情は、何かにおびえているような顔。いつも強気なあの女からは正直想像がつかない顔だ。
その繊細に浮かび上がっている顔や身体の形は、プロの職人であろうと到底作り出すことはできそうにないほど細かいものであった。
この人形のように小さなチョコは、長時間掴んでいればおそらく溶けてしまうだろう。
そう察した私は、慌てて千尋チョコを台所のまな板の上に置く。
「どうだ。なかなかの出来じゃろう?」
「ええ、そう、ですね」
なんだろう。
やっと目的に物が来たのに変な若黙りを感じる。
――――ってんな事はどうでもいいんだ。早く料理しないと間に合わない。
私はまな板の上に置いた千尋チョコ白い布を被せ、トンカチを持つ。
「では、私はこの辺りで…」
悪魔はそう言ってまた霧にように消えていく。
悪魔なんて今はどうでもいい。早く、料理をしないと…。
まずは、…えっと……
…………
ちょっと待て。
白い布を取って、砕こうとしていたチョコを見る。
…えっと、これはあの春日千尋なんだよな。
全身どっからどう見てもただのリアルなチョコレート。だが、これは元私が大っきらいな人間。
でもチョコレート。
しかし人間。
私が夕方食べたチョコは?
人間?
チョコ?
「――――うっ」
突如言い知れる嘔吐感に襲われた私は、洗面台に顔を近づける。
腹に力を入れ、必死に中の物を出そうとするが出てこない。
…待て、私はなんであんなにも当たり前のようにチョコを食べた?
あれは人だぞ。
実際に見た訳ではないし、味だって美味いチョコレートだった。
確かにこのチョコレートになっている春日だって大嫌いな人間だ。
でも本気で殺してやりたいなんて思った事は一度もない。
当たり前だ。
本気の殺意なんてそう簡単に芽生えるものじゃない。
じゃあ、なぜあの時の私はあんなにもスマートに?
思い出せない。
あの時の記憶が。
どんな事を考えていたのか。
「はいは~~い」
洗面台に顔を出している私の背後からさっき去ったばかりの悪魔の声が響き渡る。
「おやぁ~、まだ調理しとらんかったのか?」
「――-な、何の用ですか?」
忘れ物ならさっさと取って帰って欲しい。私は今それどころじゃない。
「いえいえ。今回は違いますよ」
「…じゃあ、何の用なんですか?」
「春日千尋様の願いを叶えに来ました」
「春日?」
「はい。内容はあなたと一緒の物です。最高級の素材を使ったチョコレートが欲しいと」
「なんでそれをわざわざ言いに…」
「決まってるじゃないですか」

パチンッ

「…え?な、なにこれ!?」
悪魔が指を鳴らすと、私の体は宙へ浮き始める。
ジタバタ動かすが、落ちる気配はない。
「な、なんで私を浮か…」
不敵に笑う悪魔。
……そうだ。
考えてみれば当たり前の事じゃないか。
私は学内一の美女。
それは自惚れでもなければ、自尊でもない。
まぎれようもない、事実。
もし、私以外がそのような願いを叶えるとしたらターゲットは―――
―――――私以外に考えられない。
「え?…う、うそでしょ?」
「では、おいし~チョコレートになってくれ……それ!」
「…い、いやあああぁぁぁああ………ぁ」
悪魔がそう言った瞬間、私の身体が動かなくなる。
中途半端に開いた口、大きく見開いた眼、バタつかせるように投げ出されたな手足。すべてが全く動かぬまま、視界が徐々に変わっていく。
今まで小さく見えていた悪魔がどんどん大きくなっていく、ついに私よりも大きくなる。
そのまま、体中が何かに浸食されていくような気分を味わいながら、私の体は悪魔の方へ移動してく。
「さて、2人の願いをかなえた訳じゃが……これだと、結果的には双方の真の願いはかなわないという訳じゃな」
私の身体を掴みながらそう言う悪魔。
身体が全く動かない。加えて頭もボーッとしてあまり働かない。
…私は、千尋らと同じチョコにされてしまったのだろうか?
「せめて、2人の想いだけでも成就させてあげようかの」
悪魔は、ゆっくりとさっき千尋チョコを置いた場所へ歩み寄っていく。そして千尋チョコが置かれたまな板に私も一緒に置かれる。扱いはもはやチョコ同然だった。
そのまま悪魔は“慣れた”手つきで私と2つのチョコの上に白い布を被せる。
何をするのか。
分かってる。私がさっきまでしようとしていた事だ。
トンカチの持ち上げられる音が響く。
やめて。
振りおろさないで。
殺さないで…。

バキッ

バキンッ

数回にわたって重たい物が私と千尋チョコに振りおろされ、何かが砕ける音がする。それと同時に目の前が真っ暗になってしまった。
何も見えない。
「さて、あとはこれを溶かして…」
感触をあまり感じないので分からないが、砕けた身体を悪魔が集めているのだろう。
そう。
私の体は砕けてしまったみたいだ。おそらく隣も。
でもよく分からない。
死んでしまったのだろうか。
だとすると死後とはこんなにも無感情になれるものだったのか。
悲しみや無念の欠片さえ今の私からは感じ得ない。

しばらくすると身体から妙なくすぐったさを感じる。
こそばゆい感覚に似ているが少し違う。
…こんな経験ある訳ないから、例えとしてはおかしいにも程があるのだが、もし身体が粘度のように柔らかくなってしまえるのだとすれば、それをこねくり回される感覚に近いと思う。当然そんな事ある訳がないが。
いや、そうとも言い切れないか。
何せ今私が経験していることは、それ以上と言っても過言ではないのだから。
多分、今私はチョコになった身体を溶かされ、…それをかき回されているのだろう。
もちろん私以外のチョコも一緒に。
「さて、あとは焼きあげれば立派なチョコレートケーキに出来上がることじゃろうな」
悪魔からそんな声が聞こえてくる。奴はやはり私らを使ってケーキを作っているのだろうか。
(…ねえ、もしかして…あたし以外に誰かいる?)
ふとそんな中、ある意味聞きなれた声が脳内に小さく響きわたってくる。脳内といってもおそらく今はそんなものないだろうから魂内とでも言うべきか。
(…もしかして、ブサイク女?)
(ブサイクって…アンタやっぱりそんな感じであたしを見てたんだ)
しまった、つい本音が。
(…ま、あたしも人の事言えないか)
聞こえ渡る声の主は先ほどまで恨みに恨んでいたブス女、春日千尋だった。
(まさかアンタまであたしと同じ願い掛けてたなんてね…あ~サイアクぅ)
気品を全く感じさせない口調でそう言うブス女。しかもこういう場であるせいか、もはや取り繕いの欠片さえ感じられない。
(本さえ忘れてなけりゃなぁ~。今ごろ目障りな高飛車女を葬り去って、今ごろつよしとめでたく結ばれるはずだったのになぁ~)
(自惚れも度し難いと尊敬しますよ)
(アンタに自惚れなんて言われたくないな~。いっつも人の事見下してさ~、その上外面も良いもんだから教師陣にも好かれて本当マジでムカつくな~)
(嫉妬は負け犬の特権ですね。ブサイク女さん)
(ハハ~、今手があればアンタの首を絞めて東京湾にコンクリ詰めにして捨ててこれるんだけどな~)
(フフフ…、私も今両足があれば自慢のこの美足であばら骨と脊髄全部折ってあげれるんですけどね…)
(ハハハ…)
(フフフ…)
(………)
(………)
妙な沈黙。気のせいか先ほどに比べ少し頭のさえてくる。
でも本当ムカつく女だホント。
はじめてこんなに長く話したのに苛立ちしか感じられないなんて。
ちょっと悲しい。

チンッ

ガチャ

「お、焼けたの~…。どれどれ…」
しばらく聞こえなかった悪魔の声が再び聞こえ始める。気のせいか身体が少し熱い。
「ほほぉ~。うまそうなケーキになったの…」
ケーキ…そうか。
この身体の熱さは白熱した喋りのせいではなかったのか。
「どうじゃ、こんなうまそうな姿になれた上に最愛の人に食べてもらえるんじゃから、お主らも嬉しいじゃろ?」
なに馬鹿なことを言ってるんだこの不気味生物が。
大体、斎藤君は――――――
(お願い元に戻して!!)
思わず身体(といってもないけど)が震えあがる。魂内に一瞬気を失いそうなほどの大声が響き渡った。
(お、お願い!馬鹿な事お願いしちゃったの悪かったと思ってる!ごめんなさい!だから…元に戻して!ケーキなんてなりたくない!!)
必死に声を張り上げる千尋。
こんな感情的な彼女、はじめてみたような気がする。ま、見えないけどね。
「ん~。ケーキはおしゃべり出来ないはずじゃからな~。仮に喋っていたとしてもワシには聞こえないな~」
ムカつく声を上げる悪魔。
こんな感情的な声を聞いてもこんな返答をしてくる当たりやはり悪魔だな。少しくらい耳を傾けてやればいいものを。
……な、情けとしてな。
(じゃ、じゃあ…あたしはいいから…その…どうにかして…こ、この長谷部だけでもいいから助けてあげて!)
(は?)
(元はと言えばあたしが悪いの!あたしが…変なお願いしちゃったから!冷静に考えればあの時のあたし狂ってた!!…だから…その…いくらこんな高飛車で自意識過剰な女でも…その…)
(は、え?春日さん何を…)
この女は何を言ってるんだ?
だってもともとコイツは私をある意味殺そうとしてた訳だろ。その目的が達成されようとする中、運悪く自身まで巻き添えをくらった。なのに、自分はいいから殺そうとしていた女を助けろ?
「さてと…、箱にも入れたし。後はふたをしてラッピングするだけじゃの」
その冷淡な台詞を聞いた私の中で、何かがはじけた。
(…おい、そこのクソ野郎)
「…ん?」
(このケーキは、斎藤君にあげるんだよな?)
「フフフ…そのつもりじゃが?」
初めて悪魔が返答をした。
(悪いけど、2種類の異なる味ケーキを混ぜ合わせるのは味の出来栄えを考えると非常に不味い)
「それがどうかしたのかの?」
(わっかんないかなぁ~、アンタは言ったよな?チョコの美味しさは元の人間の美しさに比例すると。…つまりクソ不味いチョコともの凄い美味なチョコ一緒に混ぜ合わせるのとな、食品の良さを台無しにしてしまうんだ。そんな不味いもの食べさせるなんて斎藤君が可哀そうだ)
「つまり?」
(さっさとこのクソ不味いチョコを取り出せっつってんだよ!)
(え?)
「ほぉ~…」
(このブサイクな上食べ物になっても不味いこの最悪女をさっさと元に戻せ!斎藤君にささげるプレゼントは―――私一人で十分だ)
(アンタ…何を…)
(せめてこれくらいの願い叶えさせてくれないかな、悪魔さん?)
「残念ながらそれはできそうにないの…。なぜなら」
(なぜなら?)
「もうワシの手では元には戻せんからの」
(……そうか)
「では、ラッピングのために閉じるぞ。…それでは2人…いや2個ともごゆっくり…」
変な言いなおしを最後に悪魔の声は聞こえなくなっていく。
奴の言った通りおそらくは箱か何かに入れられてしまったのだろう。
はぁ~あ、結局ダメだったか。
ま、形崩されてる上にケーキになってるみたいだし。そんな願い無駄か。
…多分、こんな姿じゃなかったらトチ狂って泣きわめいていたかもね。流す涙もないからこんな淡々としていられるのかも。
でもさ、私のような美しい女を素材にしたチョコレートケーキなんて世界…いや宇宙一なわけだよね!
そ~んな美味しいものを愛しの斎藤君に食べてもらえるなんて、やっぱり美しい女は散り方も一般人とは違うってこと!若干不味いチョコも一緒なのは癪に障るけど。
(………ごめんね)
人が感傷に浸ってるなか、子猫のような小さな春日さんの声が聞こえてくる。
(私が…あんな…ことっを…)
こいつはこんなに気の弱い女だっただろうか。私の知ってる春日千尋はもっと無作法でさらにはデレカシーの欠片さえないような女だったような気がする。
(…つよしがねっ、…最近、アンタの話ばっかするの…)
何だって!?
(見た目はおしとやかで上品に見えるけど、…実はすごく男っぽくて気が強いって…)
ウソだ。斎藤君の前でそんな姿を見せたつもりは……ない。多分。
(でもそれが可愛いって…)
ヤッホ――――!!!!
やはり斎藤君は私の魅力に気づいてたのか。くそっ、甘菓子なんかになる前に告っときゃよかった。
(それなのに…)
ん?
(それなのに…あたしの事はいっつも友達みたいにしか扱ってくれないしさ…でね…そういうこと考えてたらなんか…その…)
(………なんだ、嫉妬でもしたのか?)
(……………)
無言は肯定と受け取っていいのだろう。
嫉妬か、気持ちは分からんでもないな。
(で、でも今考えてたらあの時のあたし狂ってた!本だって偶々拾ったものだし!あの悪魔にこの事勧められても初めはまったく乗り気じゃなかったし…)
(……そんな、自分ばっかり責めるなよ)
(え?)
(春日さんさ、自分が事件の首謀者見たいな言い方してるけど私だって同じ願いかけたんだし良い意味で言えばおアイコみたいなもんさ。……最も、私だって初めは全く乗り気じゃなかったけどな)
そう考えると私も春日さんもあの悪魔に催眠術でもかけられたのだろうか。
記憶があいまいだから断言できないが。
(…ありがとう)
(ほぇ?)
いきなりあり得ない言葉が聞こえたような気がする。
(……だから、ありがとう)
ありがとう?
あの春日が私に礼?
なんで?
…………ああ、そうか。
きっとこれは夢か。
これが夢オチってやつか。
ありえない事ばっかだしうなづける展開だな。
王道だが理にかなっている。一部では批判を食らいかねないオチだが。
うん成るほど。そういう事だったのか。
(残念だけど、夢じゃないみたいだよ)
(え?)

「……うわぁ…美味そうなケーキ」

聞き覚えのある声が響き渡ってくる。
…これは、斎藤君?
(…もう朝みたい)
春日さんの少し残念そうな声が響き渡る。

「これ、本当に食べちゃっていいのかな?」

嬉しそうな斎藤君の声。
(……これが夢だったら、長谷部さんの事知れて、今後の対策に役立てれたんだけどな~)
(ぬかせブサイク女)
(アハハ~、黙ってれば?この高飛車女~)

「それじゃ、さっそく切り分けてみようかな…」

(……今回はさ、引き分けってことにしない~?)
(……納得できないけど、1万歩譲って妥協してやろう)
(……でもね、次はね…)
(……ああ、次はな…)

((絶対に負けない))

「…な、何これ!?!?こ、こんな美味いケーキ初めて食べた!!」

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